Non-Technical Skills

ノンテクニカルスキルとは


通称、ノンテクって何?

4つのチカラ
 医療介護現場にはテクニカルスキル(専門技術)とノンテクニカルスキル(非専門技術)という2つの世界があります。前者が「患者さんを健康にするスキル」だとすると、後者はそのために「組織で問題解決するスキル」。いくら自分自身がテクニカルスキルに優れていたとしても、それを利用者さんに実際に提供するためには、他スタッフを巻き込みながら、現場のあらゆる問題を組織で解決していかなければなりません。したがって、両者は自転車の両輪のような関係にあり、どちらが欠けても医療介護の質は高まりません。
すべてのスタッフに必要不可欠
 ノンテクニカルスキルの原点は、1955年にロバート・L・カッツが提唱した「カッツの3つの基本的スキル」にあり、ヒューマンスキル(人間関係力)とコンセプチュアルスキル(論理思考力)を合わせたものが、ノンテクニカルスキルといえます。

専門技術のみでは救えません
日本の医療事故の要因のうち、テクニカルスキルの不足によるものは10%ほどに過ぎず、半数以上がノンテクニカルスキルの不足によることがわかっています。
問題の定義=あるべき姿と現状のギャップ
一方で、医療安全だけでなく、リスクマネジメントや感染対策、業務改善、そして看護計画からリハビリに至るまで、医療行為はすべて患者さんに関する問題解決をしています。なぜなら、問題解決とは「あるべき姿と現状のギャップを埋める」ことを意味するからです。このように考えると、現場で行う業務は常に、患者さんのあるべき姿と現状のギャップを埋め続ける営みであることがわかります。

問題解決には2種類ある
 左は「問題発見型」の問題解決。つまり、現状が悪い状況に陥ってしまい、元の状況とギャップ=問題ができたため、それを埋めるという営みです。医療事故や感染事故、クレーム対応などがこれにあたります。通常「問題解決」というと、こちらをイメージしがちですが、これは正しい問題解決の考え方の半分にすぎません。

右は「問題設定型」の問題解決。つまり、一見問題がなくても、その現状に満足することなく、あるべき姿を描き、意図的にギャップ=問題をつくりだし、それを埋めるという営みです。病院の理念にあるような「最適な医療」「より良い医療」などがこれにあたります。

 このように考えると、医療に「問題はありません」という答えはないことに気づくはずです。なぜなら、それは「現状に満足しています」と言っていることに等しいからです。常に最適な医療を提供し続けることが医療者の使命であれば、進むべき道はただ1つ、「問題解決する」道だけなのです。


問題解決の2W1H

料理に例える
テクニカルスキルと一言で言っても、医師や看護師ごと、内科や外科ごとに数多くのスキルがあるように、ノンテクニカルスキルもたくさんのスキルがあります。ただ、そのなかでも一番大事なスキルがあります。それは、料理に例えると「レシピ」です。では、誰でも美味しい料理をつくることができる(良い問題解決ができるようになる)レシピとはなにかを、次のレシピを使っていない議論(イケてない議論)とレシピを使った議論(イケてる議論)で理解していきたいと思います。
問題解決の道筋
なぜイケてる議論は問題解決が進んだのかを、Before-Afterで考えてみましょう。

進まない議論の姿
進んだ議論の姿

イケてる議論が問題解決できたのは、実は3つの話を順番に議論しているからです

第1段階
第2段階
第3段階

これに対して、イケてない議論が問題解決できなかったのは、3つの話をバラバラに議論しているからです(しかも原因の話を議論していない)

How
What

How
What

これが、問題解決のレシピ(3つの流れ)です

どんな問題も必ず、

問題(What)→原因(Why)→対策(How)

の順番に議論していくことで、あるべき姿に現状を引き上げていくのです。

この問題解決のレシピのことを、それぞれの英語の頭文字をとって2W1Hといいます。


2W1Hが大切な理由

すぐに答えを求める
2W1Hをもとに普段の現場での問題解決を振り返ってみると、漠然とした問題に対して、いきなり「どうしましょう?」といった問いかけをしてしまっていませんか?言葉というのは「考えるための道具」です。「どうしましょう?」という言葉は、「対策の話をしましょう!」と言っていることと同じですから、この言葉を使ってしまった瞬間に、他のスタッフの頭の中が「対策のことを考えるんだな」という意識になってしまいます。
同じ過ちの繰り返し
その結果起こるのが、対策を立てたはずなのに同じ問題が起こり続けるという、問題解決の「イタチごっこ現象」です。なぜ同じ問題が起こるのかというと、対策が正しくないから。そして、なぜ対策が正しくないのかというと、原因を考えていないからです。

論点を問いかける
積極的に使う言葉は、「なぜ?」「なんで?」。この言葉を使うことで、議論している全員が「原因のことを考えるんだな」という意識に変わっていきます。なお、これは「Aが良いと思います」と言ったように、対策の意見が出てきたときにも有効です。「では、なぜAが良いと思ったんですか?」と聞くことによって、そのスタッフは原因の説明をせざるを得なくなるからです。
アイディア収集のクセをつける
  では、原因を考えるとはどういうことか。ともすると、「RCA分析」とか「なぜなぜ分析」といったように、原因分析は難しく捉えてしまいがちですが、けっしてそんなことはありません。問題解決のイタチごっこ現象に陥らないためには、正しい対策を考えなければなりませんが、とはいえすぐには思い浮かばないはずです(そうでなければ苦労しません)。ですから、正しい対策を思い浮かぶためには、なにかきっかけとなるアイデアが必要です。それが、原因を考えるということ。つまり、原因を考えるのは「アイデアを集める」ためなのです。

よくある「自転車 紛失問題」から考える

思い込みに注意

「原因を考えるのはアイデアを集めるため」。このことを、自転車とられた問題を例に見ていきます。

  例えば、少し離れた間に自転車をとられた自分をイメージしてみてください。愛用する自転車がとられたというのを、鍵をかけ忘れた事が原因であれば、対策として「鍵をかける」が思いつきます。しかし、しっかりと鍵をかけたのに、またとられてしまいました。

「そうだ!鍵をかけよう」といった対策は、「そういえば鍵をかけてなかった」という原因だけを直感で決めつけて行動しているだけです。ただ、それで本当にこの問題を解決することができるでしょうか?

原因で立ち止まる

もし、他に考えられるアイデアを集めたらどうでしょうか。実は、自転車を停めたエリアは放置自転車が多く、取り締まり強化をしているエリアでした。そして、このエリアは高級住宅街から近い駅前で、実際にのっていた自転車は数万円する高級ものでした。さらに、普段の移動はもっぱら電車で、自転車での行動範囲は電車でまかなえる程度です。次に自転車にのる機会がいつになるかはわかりません。

 これらの原因をアイデアとして立ち止まって把握することができたのであれば、取るべき対策は全く変わるはずです。これが、アイデアを集める(原因を考える)ことの意義です。


そして実は、原因を考える目的はもう1つあります。これは、ある意味ではアイデアを集める(対策の質を高める)よりも重要なことといえます。それは、現場の「納得感をつくる」ことです。現場でコミュニケーションをとる時に、先ほどの自転車問題のように原因が網羅されているとその後の対策に根拠のある説明ができるようになります。


ビッグワードを使わない

問題解決の質を高める要素

隠し味としてビッグワードを使わない。ただ、これだけです。「論理的思考」「ロジカルシンキング」「クリティカルシンキング」といった、物事を論理的に考えるための技術は世の中に沢山あります。しかし、例えば「論理的思考の基本は演繹法と帰納法の2つがある。演繹法とは、A=B、B=C、ならばC=Aとなる・・・」といったことをいくら覚えても、臨床で使い物にならなければ意味がありません。学術の世界が「正しいかどうか」の世界であれば、臨床の世界は「役に立つかどうか」の世界だからです。一方で、この隠し味は「世界で一番シンプルな論理的思考」と言えます。では、そもそも「ビッグワード」とはなにかを、医療において代表的な次のビッグワードを通じて考えていきたいと思います。



では、人はなぜビッグワードを使ってしまうのでしょうか。それは、「ビッグワードを使うとコミュニケーションが楽になるから」です。「患者さんのQOLを高めましょう!」という意見に対して、「QOLを高めるべきじゃない!」という反論は起こりません。「責任を持って業務します!」という意見に対して、「あなたは責任を持つべきじゃない!」という反論も起こりません。ビッグワードを使えばあいまいなコミュニケーションでやり過ごすことができるので、とても楽なのです。

 この背景になるのが、「人は性善説でも性悪説でもなく性弱説にもとづく」という重要な捉え方です。人は本来弱い生き物だからこそ、楽なほうに逃げてしまう。だからこそ、性弱説にもとづき、逃げ道(ビッグワード)を意図的に断たなければならないのです。

学びは自組織の事例に引き寄せることが大切です。では、みなさんの普段の業務で、どのようなビッグワードを使ってしまっているかを、一度考えてみてください。ビッグワードは、日常用語だけではなく、専門用語や略語にいたるまで、あらゆる言葉があります。

例えば、リハビリ業務では「◯◯さんのTUGを測ってください」といった「TUG」という言葉が使われます。みなさんは、この言葉がなにを意味するのかわかりますか?簡単にいえば、「椅子に座った状態から、3m先の折り返し地点を回って帰ってくる」という検査です。当然ながら、リハビリスタッフ間では意味を理解しているので問題ありません。ですが、例えば多職種間で議論するとき、その人たちがTUGという言葉の意味を知らなければ、バランスや転倒リスクに関する議論に参加できません。このように、他の職種、分野、施設、あるいは患者さんやご家族に伝えたときに、意味を理解してもらえない言葉や違った捉え方をしてしまう言葉もビッグワードにあたります。ですので、おそらく業務のなかで何十個とビッグワードを使ってしまっているはずです。


では、ビッグワードを使ったコミュニケーションを避けるためには、どうすれば良いのでしょうか?答えは簡単、「具体的には」という言葉を使うだけです。ビッグワードという抽象的な言葉は、「具体的には」という言葉を使ってしまえば、具体的に説明せざるを得ないからです。このように、「脳みそに強制(矯正)ギプス」をはめながら、まずは、言葉を具体的に表現する訓練をしていってください。


ノンテクニカルスキルで最も重要なレシピ(2W1H)と隠し味(ビッグワードを具体的にする)という2つの技術を学びました。

能力開発は反復練習の世界です。ノンテクニカルスキルにはおそらく何百という技術がありますが、例えば200コの技術を1回ずつ練習しても、どれも身につかずに時間と労力の無駄になってしまいます。それだけならまだしも、技術にならない学びをしているだけでは、単なる「知識コレクター」になってしまいますが、当然ながら、みなさんは別に知識コレクターになりたくて医療者として働いているわけではないはずです。


時間も労力も限られるのであれば、いかに能力として身につける技術を「絞り」、それを何百回何千回と反復練習するかです。それを「自転車の乗り方を覚える」と言っています。自転車に乗るのに、マニアックなアレやコレやの知識は必要ありません。ひたすら乗る練習を繰り返していくだけ。自転車は、一旦乗れるようになれば、一生乗れると言います。それはなぜかというと、自転車の乗り方を覚えたからです。ノンテクニカルスキルも全く同じ。レシピ(2W1H)と隠し味(ビッグワードを具体的にする)のたった2つの技術をとにかく「組織」で反復練習し、誰もが当たり前に使える技術にしていってください


料理は、単につくり方を教えてもらうのではなく、実際に自分でつくって食べてみることが大切です。このシートは、様々な医療機関で実際に使ってもらっている問題解決プラン作成シートです。もちろんみなさんも自施設でご自由にお使いいただけます。部署のカンファレンスやミーティングなどの会議の場で、それも難しければ他のスタッフ数人と一緒に、まずはレシピ(2W1H)と隠し味(ビッグワードを具体的にする)の2つの技術を使って問題解決の議論をしてみてください。そのあとは、ひたすら反復練習。すぐに上達を求めるのではなく、最初はとにかく「慣れる」ことが重要です。そして、地道に、愚直に組織全体にノンテクニカルスキルを広めていき、当たり前にしていってください


組織変革までの道のり

医療介護の現場は負の財産だらけ!?

医療で代表的な現場の「お困りごと」です。
ただ、さらに現場スタッフを苦しめているのは、単に業務が忙しいのではなく、それが「不毛な多忙」になってしまっていることです。成果が出ている実感がないのに、ただただ多忙な業務をし続ける。これでは、「こんなことをするために苦労して医療者になったわけじゃないのに・・・」と落胆しても仕方ありません。

業務が終わらない!!
人が足りない!

 このような不毛な多忙が起こるのは、「人を動かすマネジメント」に原因があります。スタッフは誰しも、自分の強みを最大限に生かせる業務に【配置】されたいと考えます。そして、そこで努力した結果は適正に【評価】され、それにもとづいた(内的・外的)【報酬】をもらいたい思います。こうして実感を得ることができたら、さらに業務で能力を生かすための【育成】を求めるはずです。したがって、これら4つの視点をどのように最適化していくかを考えるのが、入職したスタッフに対して行うマネジメントです。このマネジメントのポイントは「整合性」。つまり、4つの視点が歯車のように噛み合って初めて、有効に機能するといえます。


 一方で、入職前に行うのが【採用】のマネジメントです。人を動かすマネジメントにおいて、この【採用】のマネジメントが8割を決めるといっても過言ではないほど、組織というバスに乗せるべきスタッフを乗せ、乗せるべきでないスタッフを乗せないようにすることは重要です。加えて、【退職】のマネジメントも重要です。万が一、施設や組織に恨みを抱えたまま辞めてしまうと、本人はその恨みを晴らしたいと考え、地域に風評被害を撒き散らすかもしれません。医療は口コミが広がりやすい業界ですから、「この地域で就職先を探しているけど、そんな施設はやめておこう・・・」と、風評被害は当然【採用】に影響してしまいます。

これら6つの視点が、人を動かすマネジメントの全体像です。したがって、スタッフが不毛な多忙に陥る原因が、これら6つの視点のどこにあるのかを考えることが重要になります。


 人を動かすマネジメントを考えることはもちろん重要です。現在の医療は、この6つの視点ですら、ほとんど機能していないといっても過言ではないからです。ただ、残念ながらこれだけでは意味がありません。なぜなら、「人は組織に従う」からです。組織というムラ社会に生きるムラ人であるスタッフは、そのムラの掟に従って生活しています。いくらスタッフ自身が「こういうことをしたい!」と思うことがあっても、それがムラの掟と反することであれば、たとえそれが正しいことであっても、行動に移すことができません
 では、そのムラの掟とはなにか。それが「空気」です。したがって、人を動かすマネジメントを行う前に、組織を動かすマネジメントである「空気のマネジメント」を行っていく必要があるのです。


医療はスタッフ個人にOJT(業務のなかでの教育)やOff-JT(業務以外での教育)を通じて、あるいは本人の個人学習と成長によって、現場を変えていくことを暗黙の前提としています。

しかし残念ながら、いくらOJTやOff-JTを行っても、個人学習をしても、現場は変えられません。これが、人を動かすマネジメントの限界であり、個人の学習の限界。個人は組織の空気に抗うことができないからです。


人間の身体にホメオスタシスが働くように、実は組織も放っておけば「このままでいい」「変わりたくない」という現状満足の空気が広がっていきます

そうした組織は、変化に適応するよりも、新しいことを受け入れることを拒み排除する、「排除の論理」が働きます
それが「村八分」現象です。


空気の支配

 このような空気の支配の恐ろしさを理解するためには、過去の有事から学ぶことがとても大切になります。
専門家や権力者であったとしても、
空気に支配されてしまうと
不合理な決断を「せざるを得なく」なってしまう
これは、極めて重要な歴史の教訓です。

 過去の有事の体験者は、「文化」でも「風土」でも「雰囲気」でもなく、「空気」という言葉を使って当時を振り返っています。これは、当時の組織のなかの人たちが感じていた「目に見えないなにか」を表現するときに、最もふさわしい言葉が「空気」であったことを表しています。


 この空気の支配は、決して過去の有事だけの出来事ではありません。たとえば、医療現場の多くの管理者が、スタッフとの面談に関してこのようなことを思うはずです。みんながいい事を言うのであれば、現場でそれを実践すればいいだけのこと。なのに、なぜそれができないのでしょうか。そこに、スタッフ個人個人の意識や能力の範疇を超えた強大な力が働いているとしか考えられません。それが空気の力なのです。

 人を支配する空気がなぜつくられるのか。それを理解するためには、「医療現場には2つの世界がある」という事を知る必要があります。それは、「合理」の世界と「情理」の世界です。合理の世界とは、「正しいかどうか」の世界
 医療はエビデンスにもとづいて業務を行わなければならないことは、言うまでもありません。一方で、臨床では正しいかどうかとは全く別の情理の世界、つまりそれを「どう感じるか」の世界もあります。皆さんも、「言っていることは正しいけど、あの人にだけは言われなくないよね!」と思わず考えてしまうような相手に出会ったことがあるはず。これはまさに、「合理的には理解できるが、情理的に納得できない!」ということを意味しています。いくら正論を振りまいたところで、相手に納得してもらえなければ、絵に描いた餅になってしまうのです。
 これまでの医療は、合理の世界にこだわり過ぎて、情理の世界を軽視してきたのではないでしょうか?そして、それによって不幸な人たちを生み出してきたのではないでしょうか。特にこれからのAI(人工知能)などのテクノロジーが医療そのものになっていく時代、合理の世界が得意中の得意である人工知能と人間が、生存競争を繰り広げても意味がありません。そのような不毛な対決に時間と労力を費やすのではなく、これからは情理の世界に目を向けていく必要があります。


 2:6:2の法則は、組織の原理原則です。したがって、「自分の組織のスタッフはけっしてそうではない!推進派はもっといるはずだ!」と思いたい気持ちはひとまず脇に置いてください。この2:6:2は、「AさんとBさんを比べたら、Aさんが推進派・・・」といったようにあくまでも「相対的」なものですから、どんな組織であれ、必ず2:6:2に分けることができます(ですので、もちろん組織によっては、同じ2:6:2でも様々なレベルの違いがあります)。

 空気のマネジメントには、組織の2:6:2の法則という羅針盤が必要不可欠です。なぜならば、どの層にいつどのように働きかけるべきかが異なるからです。したがって、まずは自組織のそれぞれの層がどのようなスタッフで構成されているかを、正確に把握することが大切になります。そして、それを考えるにあたり、2つのポイントを押さえておく必要があります。


なぜならば、実は職位が高いスタッフほど抵抗派であることが少なくないからです。よく考えてみればこれも当然のことで、もし職位が高いスタッフが推進派であれば、すでに組織変革が推し進められているはずだからです。そうではなく、現状満足の空気に支配されているからスタッフが不幸になっているのであれば、まず健全に疑うべきは、「管理者が抵抗派になっていないかどうか」です。

 では、なぜ職位が高いスタッフが抵抗派になってしまうのでしょうか。組織のなかで認められ管理者になれたのは、その当時の環境に最も適応できたからです。しかし、環境は常に変化していきます。変化に適応する者が生き残るということが生物の歴史であれば、変わり続ける環境に適応していく必要があります。それなのに、過去の環境に過剰適応してしまうと、未来の環境に適応できなくなってしまうのです

 過去の栄光や実績、それを獲得するために払った犠牲や努力を無駄にしたくないと考えるのは、性弱説にもとづく人の自然な反応です(これをサンクコストと言います)。しかし、それによって環境変化に適応できなくなると、それらを守ろうとするあまり、新しいことを受け入れずに排除しようとしてしまう。これが、職位が高いスタッフが抵抗派になるメカニズムです。


 2つ目は、「一見仕事ができるスタッフが推進派とは限らない」ということ。例えば、いつも忙しそうに仕事をしているのに、他のスタッフに仕事を渡さないスタッフがいます。「私だけこんなに業務があって忙しい!」と嘆くのであれば、他のスタッフに業務を分担してもらえばいいだけです。なのに、なぜ仕事を渡さないのでしょうか?

 それは、「忙しそうに仕事をこなし、これだけ頑張っている自分を認めて欲しい」からです。実は、抵抗派のスタッフは、性弱説にもとづけば最も「弱い」人間です。こう言うと、「あんなに声の大きい人が弱いわけないじゃないですか!?」と思うことでしょう。しかし、もし弱い人間でなければ、わざわざ他のスタッフを批判したり、足を引っ張ることで自己主張するような不毛なことをせずとも、推進派のように文句も言わず愚直に行動し続けるはずです。粛々と業務を行い、その成果で他者に認められる自信がないから、声を大きくして認めて欲しいとアピールしているのです。


推進派をみつける基準!

2つ目は、「一見仕事ができるスタッフが推進派とは限らない」ということ。例えば、いつも忙しそうに仕事をしているのに、他のスタッフに仕事を渡さないスタッフがいます。「私だけこんなに業務があって忙しい!」と嘆くのであれば、他のスタッフに業務を分担してもらえばいいだけです。なのに、なぜ仕事を渡さないのでしょうか?

それは、「忙しそうに仕事をこなし、これだけ頑張っている自分を認めて欲しい」からです。実は、抵抗派のスタッフは、性弱説にもとづけば最も「弱い」人間です。こう言うと、「あんなに声の大きい人が弱いわけないじゃないですか!?」と思うことでしょう。しかし、もし弱い人間でなければ、わざわざ他のスタッフを批判したり、足を引っ張ることで自己主張するような不毛なことをせずとも、推進派のように文句も言わず愚直に行動し続けるはずです。粛々と業務を行い、その成果で他者に認められる自信がないから、声を大きくして認めて欲しいとアピールしているのです。


子離れ問題に向き合う

 組織の2:6:2の法則を羅針盤に空気のマネジメントを行っていく前に、変革リーダー自身の心の準備として、自問しなければならない問題があります。


 それは、“子離れ問題”です。トップも含め変革リーダーは、スタッフに主体的・自律的に現場の問題解決をしてもらいたいと純粋に思っています。そして、そのためにできる限りの手助けをしたいと、「善意」で手や口を出します。しかし残念ながら、それが大抵スタッフにとって「ジャマ」になってしまっていないでしょうか。この「小さな親切大きなお世話」現象は、変革リーダーが子(スタッフ)離れできていないために起こる現象です。

 もちろん、変革リーダーは誰しもスタッフをジャマしようとして手や口を出すのではありません。ですが、善意だからこそ厄介で、変革リーダーはジャマしていることに気づかず、スタッフも「そうはいっても私たちのことを思ってのことだから・・・」と否定できない。結果、子離れ問題が放置され続けてしまいます。

 人は「修羅場体験」が育てます。変革リーダーが子離れできずに手や口を出してしまうということは、その成長機会を奪っていることに等しいのです。このように考えると、「可愛い子には旅をさせよ」を実践するために、いかに変革リーダーが子離れ問題に向き合うかがとても重要になるのです。これは、変革リーダー自身が自問するしかありません


 スタッフの成長機会を奪わないようにするためとはいえ、なぜそこまで子離れ問題にこだわるのでしょうか?たとえスタッフが成長できなくても、トップダウンで現場の問題解決プランを立てればいいのではないでしょうか?

 残念ながら、トップが現場の問題解決プランを正しく立てることはできません。なぜならば、現場から最も遠い場所にいるからです。べき論ではなく現実論の問題は現場で起こっており、それを本当に正しく理解し解決できるのは、その問題の一番近くにいるスタッフだけです。

 つまり、トップは「海のスイカ割り」をしているのと同じ。目隠しをして棒を闇雲に振りまわしていては、スイカ(問題)に当たらないどころか、周りの人たち(スタッフ)を怪我させてしまうかもしれません。したがって、怪我人をつくらずスイカを割るためには、周りの人たちに「もっと右です!」「あと3歩前です!」とスイカの位置を教えてもらわなければならない。そのためには、周りの人たちにノンテクニカルスキルを身につけてもらい、正しいスイカの位置と割り方を教えてもらうしかありません。

 これが、トップが正しく棒を振り下ろす(決断する)ために、スタッフにノンテクニカルスキルを高めてもらわなければならない理由です。


学びを与えるのではなく、学び方を教える

共通言語をつくる

 問題解決の自転車の乗り方を覚えると組織のなかに生まれるのが、「共通言語」です。

 共通言語とは、「同じ言葉を使って同じものの見方ができる」ということ。これまでのチーム医療や多職種連携の議論で抜け落ちていたのが、この共通言語づくりです。いくら制度をつくっても、肝心の共通言語がなければ正しいコミュニケーションはできません

 同じ日本語でも、方言の違い(医師は医師語、看護師は看護師語など)があるようなものです。したがって、正しいコミュニケーションをするために、標準語(共通言語)を部署や職種を越えて使わなくてはならないのです。


 一般的に、組織学習というと研修をイメージしますが、それよりもはるかに重要なのは、現場で組織学習を行うこと。なぜなら、スタッフはほとんどの時間を現場で過ごし、その現場でしか本当の問題はわからないからです。したがって、現場で組織学習するためには、具体的かつシンプルな実行計画が必要不可欠になります。

研修で学んだノンテクニカルスキルを、次の日に現場で喜んで使いたがる人はいません。現場には現状満足の空気で支配されているために、排除されてしまうのが目に見えているからです。したがって、「明日から使っていってください」程度のお願いでは、誰も使いませんし、使えません。そうではなく、「明日から使っていきます!」という強制をして、スタッフに「私はやりたくないんだけど、やれと言われたから仕方なくやるんです・・・」という言い訳を与えて「諦めさせる」ことが、やらざるを得ない理由づくりに重要なのです。

では、どのような実行計画を立てればいいのでしょうか。

答えはシンプルで、「問題解決シート枚数を競う部署対抗戦を開催する」ことです。複数の部署のスタッフが集まってノンテクニカルスキルの組織学習を行ったあと、3ヶ月ごとに期限を区切り、問題解決シートをどれだけ多く作成するかを部署対抗で競争してもらいます。

ここでのポイントは「質」には一切こだわらないこと。

理由は2つあります。1つは、質の評価は難しいからです。A部署よりB部署の問題解決の質が高いと判断しても、B部署のスタッフにとってみれば「私たちの部署の問題解決の方がすごいのに、なんでわかってくれないの!?」といったように、不公平感を感じてもおかしくありません。人は不公平感を嫌う生き物です。特に組織変革の初期段階において質を評価するということは、そのような状況をつくらせてしまう危険な行為と考えてください。

一方で、「量」、つまり問題解決シートの枚数を評価するのであれば、公平な評価をすることができます。なお、「部署によってスタッフ数に違いがあるので、部署対抗にすると不公平なのでは?」という意見もあります。しかし、部署で問題解決するうえでは、スタッフ数が多いことは必ずしもメリットにはなりません。なぜならば、スタッフ数が多い方が議論したり決断するのに時間と労力がかかるからです。逆に、スタッフ数が少なければ迅速に議論し決断することができ、問題解決シートの枚数を増やすことができます。

問題解決シートは、組織で使ってこそ意味があります。空気を変えるためには、「皆で同じことをやっている感」を演出するのが大切だからです。したがって、基本的には複数のスタッフ単位で問題解決シートを使い議論してください。そのうえで、部署対抗戦を始める前に、上記の理由を各部署のスタッフに説明してから、対抗戦を始めてください。

ただ、例えば1人の部署と20人の部署など、あまりに大きな人数の差がある場合は、やはり不公平感が生まれます。その場合は、「1人当たりの枚数」で評価してください。


実は問題解決シートは3つの種類がある!

 部署対抗戦を繰り返し慣れさせていく問題解決シート。実は、この問題解決シートには、先ほどのシート以外にも2つの種類があります。それを紹介する前に、問題解決の全体像をご紹介しなければなりません。

 問題解決の全体像は、世界地図になぞらえて六大大陸でできています。まず踏破すべきなのは【問題】【原因】【対策】という三大大陸です。一方で、【問題】の大陸を正しく踏破しようとするならば、必ず【現状】の大陸を正しく踏破する必要があります。これが、「ノンテクニカルスキルとは」の2W1Hで紹介した最初の問題解決シート1.0です。


問題解決シートは順番に反復練習!


ラーメン屋の行列をつくる

空気を変えるためにやるべきたった1つのこと

ラーメン屋に行列ができていると、食べたこともないのに「あそこのラーメン美味しそうだな・・・」と感じて、ついつい並んでしまう。皆さんもこのような経験を一度はしてきているはずです。これが意味することは、人は自分で行動を決めているようにみえて、実は他者の行動によって自分の行動を決めているのです。

「ラーメン屋の行列づくり」によって社会的な空気が変わった最近の例に「ハロウィン」があります。ハロウィンは、これまでともすれば変人扱いされてきた「仮装」という行為を、そのシーズンにおいてはアイドル扱いに社会的に変えてしまいました。むしろハロウィンシーズンにおいては、所によっては仮装しないほうが変人扱いされるという「逆転現象」まで起こっています

ではなぜ、仮装という行為は同じでありながら、それが変人扱いされるのではなく、アイドル扱いされるのでしょうか。それは、ハロウィンシーズンにおいては、仮装が「称賛される空気」があるからです。それが、「仮装なんかしたら変人扱いされる!」→「もしかしたら仮装しても大丈夫かも・・・」「仮装しても大丈夫だった!」→「むしろ仮装したほうが称賛される!」という流れができ始め、先に仮装している人に続いて仮装し始める人が出てくるという「ラーメン屋の行列づくり」ができ、それによって社会的空気が変わったのです。

このことからもわかるように、社会的な空気を変えるときも、組織の空気を変えるときも、いかに「ラーメン屋の行列をつくる」かに尽きるのです。


したがって、変革リーダーがすべきことは「選択と集中」です。 自分の限られた貴重な資源(時間と労力)を、推進派に全力投入する

組織変革の一年目に仕掛けていく「ポジティブな空気のつくり方」

表向きの組織変革を演出する

ロールモデルになってもらうということは、推進派が慎重派にとって「憧れる」「羨ましがられる」存在にならなくてはなりません。いくらラーメンを食べていても、それが不味そうだったら行列に並びたいと思わないからです。そのために組織全体に共有するキャッチフレーズが「本当に頑張っているスタッフが報われる」という言葉です。

 空気をつくるためには、一体感を演出する。つまり、「同じ行動を取る」こととともに、「同じ言葉をしゃべる」ことが重要です。たとえ最初は言わされ感満載であっても、「本当に頑張っているスタッフが報われる組織にしましょう!」と一斉に、しかも何度もスタッフ全員に言わせ、耳にタコができるまで何度も聞かせ続ける。そうすると、「これだけずっと言ってたら、たしかにそうなったほうが良い気がしてきた・・・」と、良い意味の勘違いが生まれていきます

では、本当に頑張ったスタッフが報われるとはどういうことか。それは、そのスタッフが「スモールウィン(小さな成功)」を実感するということです。スモールウィンとは、日常業務のなかで自分たちの半径5メートル以内に起こった具体的なメリットのことを意味します

 現場で日々懸命に働くスタッフにとって本当に興味があるのは、ビジョンとか目標といった大げさなことではなく、日々スモールウィンを実感できるかどうかです。したがって、変革リーダーは、いかに推進派にスモールウィンを実感してもらえるかに、自分の資源を最大限費やさなくてはなりません。