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制度と報酬改定(医療)

算定要件が現場で守られる――3列対応表の作り方

診療報酬の算定要件は、告示や通知の文言としては読めても、そのままでは現場の動きになりません。「必要な指導を行い、その内容を診療録に記載する」と書かれていても、誰が、どの場面で、どの欄に、いつまでに書くのかは、各医療機関が自分で決めるしかないからです。この「決めていない部分」が、算定もれや、返還を求められる事態の入口になります。

この記事では、算定要件を日々の業務手順に変換するための考え方と、その中心になる「3列の対応表」の作り方を整理します。対象は、医事課・診療情報管理部門の担当者と、病棟や外来の管理者を想定しています。なお、個別の点数や要件の解釈は、必ず最新の告示・通知および地方厚生局の情報でご確認ください。

要件が現場に届かない理由は「主語がない」こと

算定要件の文言は、医療機関を主語として書かれています。「〜を行っていること」「〜を記載すること」という形式で、実行者は特定されていません。制度文書としては当然ですが、現場に渡したときに次のようなことが起こります。

  • 複数の職種が関わる行為で、誰が記録を残すのかが決まっていない
  • 算定の「対象になる患者」の判断を、誰が、どの時点で行うかが曖昧なまま流れる
  • 記録はあるが、要件が求めている項目の一部が抜けている
  • 月単位・年単位の要件(研修の実施、会議の開催、実績の集計など)が、担当者の記憶に依存している

いずれも「知らなかった」のではなく、「文言と業務の間が埋まっていない」ことが原因です。逆に言えば、埋める作業を一度きちんとやれば、担当者が代わっても同じ運用が続きます。この点は、新人教育のばらつきを止める確認表の作り方で扱った考え方と同じ構造です。

まず要件を5つの要素に分解する

対応表を作る前に、要件そのものを分解します。多くの算定要件は、次の5つの要素のどれかに当てはまります。分解しておくと、抜けている部分が見えやすくなります。

要素 要件に出てくる形 確認する先
施設基準・体制 人員配置、研修修了者の配置、設備、届出 施設基準の通知、届出書の控え
対象 対象となる患者の状態、疾患、算定開始の時点 点数表の算定要件、疑義解釈資料
実施行為 評価、指導、計画の作成、多職種での検討 同上
記録・様式 診療録への記載、文書の交付、様式の使用 通知の別紙様式、院内の記録規程
頻度・期限 月1回、入院から◯日以内、年次の実績報告 算定要件、施設基準の報告事項

ここで注意したいのは、要件の原文を要約してしまわないことです。「必要な指導を行う」を「指導する」と縮めると、何をもって要件を満たすのかが分からなくなります。対応表には原文をそのまま貼り付け、解釈は別の列に書きます。情報源の読み方については、診療報酬改定は「点数表から読む」と事故るでも触れたとおり、告示・通知・疑義解釈資料の階層を踏まえることが前提になります。

3列対応表――要件・動作・証跡をつなぐ

分解した要件を、次の3列に並べ替えます。列を増やしたくなりますが、最初は3列に絞ったほうが運用が続きます。

  1. 要件(原文):告示・通知の文言をそのまま。出典(区分番号、通知名)も添える
  2. 動作(誰が・いつ・何を):職種名と場面を特定した、実行可能な文に書き換える
  3. 証跡(どこに何が残るか):記録の保存場所、様式名、入力画面のテンプレート名

たとえば次のような場面です。ある加算が「入院後◯日以内に多職種で評価を行い、その内容を診療録に記載すること」を求めているとします。これを3列に展開すると、下のようになります(内容は説明のための仮の例です)。

要件(原文・抜粋) 動作 証跡
入院後◯日以内に、医師、看護師その他の職種が共同して評価を行うこと 入院◯日目の病棟カンファレンスで実施。招集は病棟師長、進行は担当看護師 電子カルテのカンファレンス記録テンプレート(参加職種欄を必須入力に設定)
評価の内容を診療録に記載すること カンファレンス当日中に担当看護師が入力、医師が確認して承認 同テンプレート。承認履歴で確認日時が残る
(施設基準)研修を修了した専任の者を配置していること 年度初めに医事課が修了証を確認、異動時は都度確認 人事ファイルの写し、施設基準管理台帳

この形にすると、監査や指導で「どこを見れば分かるか」を即答できます。逆に、証跡の列が埋まらない行は、要件を満たしている証明ができない行です。その時点で、記録様式の見直しが必要だと分かります。

手順書に落とすときに外しやすい点

対応表ができたら、それを既存の業務手順書に組み込みます。新しい手順書を別に作ると、現場は参照しません。組み込むときに外しやすい点を挙げます。

  • 記録の二重化を作らない:算定のためだけの記録様式を増やすと、入力もれが起きやすく、内容の食い違いも生まれます。既存の記録に項目を足せないかを先に検討します
  • 判断が必要な箇所を手順書に書かない:対象患者の判断など、専門職の判断が入る部分は「誰が判断するか」だけを決め、判断基準の細部は臨床側の文書に委ねます
  • 期限のあるものはカレンダーに載せる:年次の報告、研修の実施、実績の集計は、手順書に書くだけでは動きません。担当者と期日を年間計画に落とします
  • 届出内容の変更を忘れない:人員の異動で施設基準の要件を満たさなくなる場合、速やかな届出が求められます。人事の動きと施設基準の対応表を結び付けておきます

更新を前提に設計する

診療報酬改定は原則として2年に1度行われます。改定のたびに、要件の文言、様式、経過措置が変わる可能性があります。対応表は作って終わりではなく、更新される前提で設計しておく必要があります。

実務的には、次の3つを決めておくと更新が回ります。第一に、対応表の管理責任者を1人決めること。第二に、改定時に見直す行を特定できるよう、要件の出典(区分番号、通知名)を必ず残すこと。第三に、半期または年1回の自己点検の時期を決め、証跡の列に書かれた場所に実際に記録が残っているかを抜き取りで確認することです。

自己点検で不備が見つかったときに、個人の責任追及で終わらせると次から報告が上がらなくなります。要件と動作のつなぎ目のどこが切れていたかを見る、という姿勢を管理者側が示す必要があります。

AIを使う場合の線引き

通知文の要約や、対応表のたたき台づくりに生成AIを使いたいという声は増えています。下書きの作成や、長い通知から該当箇所を探す作業の補助としては一定の有用性が見込めますが、前提として次の2点を押さえてください。

1つ目は、出力をそのまま要件として扱わないことです。生成AIは、実在しない要件や古い内容を、もっともらしい形で出力することがあります。最終的な確認は必ず告示・通知の原文に戻って行い、対応表の「要件」列には原文を貼ります。

2つ目は、入力してよい情報の範囲をあらかじめ決めておくことです。患者情報や、院内の体制に関する非公開情報を外部のサービスに入力する場合、個人情報保護法および「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を踏まえた判断が必要になります。具体的な線引きの手順は記録に AI を使う前に決めておく「外に出してよい情報」の線引きにまとめています。

まとめ

算定要件が守られないのは、現場の意識の問題ではなく、要件の文言と日々の動作の間に変換作業が入っていないことが原因です。要件を「施設基準・対象・実施行為・記録・頻度」の5つに分解し、「要件の原文/誰がいつ何をするか/どこに証跡が残るか」の3列で並べ直すと、手順書に落とせる形になります。

証跡の列が埋まらない行は、要件を満たしていることを示せない行です。そこを見つけるだけでも、作る価値があります。あとは、管理責任者を決め、改定と自己点検のタイミングで更新できる形にしておくこと。小さく始めて、改定のたびに育てていく種類の文書だと考えてください。

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