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採用と配置

採用より先に効く――配置を見直す5つの着眼点

「人が来ない」を採用の問題にしない

求人を出しても応募がない、採用できても定着しない。医療・介護・福祉の現場で、ここ数年ずっと続いている悩みです。ただ、採用活動を強化しても、労働市場そのものに余っている人がいなければ、結果は大きくは変わりません。厚生労働省が毎月公表している「一般職業紹介状況」では職業別の有効求人倍率(求職者1人あたりの求人件数)が示されており、介護・看護などの職種が全職業平均より高い水準で推移してきたことは広く知られています。つまり、同じ人材を多くの事業者が取り合っている状態です。

この記事では、求人票の書き方ではなく、いま在籍している人の配置をどう組み替えるかに絞って整理します。採用をあきらめるという話ではありません。採用の成果が出るまでの時間を、配置の見直しで埋めるという考え方です。

配置を動かす前に、業務を分解して見る

配置の見直しは「誰をどこに移すか」から始めると、ほぼ失敗します。先に必要なのは、現場の業務を性質ごとに分けることです。ここを飛ばすと、結局「人が足りないから全員で何でもやる」という元の状態に戻ります。

分類 内容の例 配置の考え方
資格・免許が必要な業務 医行為、看護判断、相談支援の専門的判断など 有資格者の時間を最優先で確保する
資格は不要だが経験が要る業務 利用者ごとの対応の勘所、家族対応の初動 手順化・申し送りの標準化で担い手を広げる
資格も経験も問わない業務 備品補充、配膳下膳、環境整備、書類の仕分け 補助職・短時間勤務・外部委託の検討対象
間接業務 記録、報告書作成、会議、シフト調整 様式の統合、ICT化、頻度の見直し

この棚卸しを管理者だけで行うと実態とずれます。1〜2週間、各職種に「その日やったこと」をざっくり記録してもらうだけでも、想定外の時間の使われ方が見えてきます。

着眼点1〜5:いまの人員で変えられること

1. 人数ではなく時間帯を見る

「人が足りない」と感じる時間は、たいてい一日の中の特定の帯に集中しています。起床・食事・入浴・退勤前の記録時間などです。総人数を増やさなくても、勤務開始時刻を30分ずらす、短時間勤務の枠をピーク帯に置く、といった調整で体感は変わります。シフト表を人数の合計ではなく、時間帯ごとの人数のグラフで描き直してみると、過不足が目に見えます。

2. 資格が要る業務に有資格者の時間を寄せる

有資格者が、資格を必要としない業務に時間を取られていないかを確認します。補助的な役割を担う職種を置く場合、どこまでを任せるかを文書で明確にすることが前提です。曖昧なまま任せると、責任の所在が不明になり、事故時に現場の個人が責めを負う形になります。

3. 多職種間でのタスクの移し替え

医療分野では、医師の時間外労働の上限規制を背景に、他職種へのタスク・シフト/シェアが各種通知や検討会で継続的に取り上げられてきました。介護・福祉でも考え方は同じです。ただし、移せる業務の範囲は職種ごとの法令で決まっています。移し替えを検討するときは、現場の感覚ではなく、根拠となる法令・通知の該当箇所を必ず確認してください。

4. 兼務・配置の変更が加算や基準に触れないか

介護保険法や障害者総合支援法に基づく指定基準では、職種ごとの配置や常勤換算の考え方が定められています。また、多くの加算には人員や体制に関する要件があります。配置を動かした結果、意図せず要件を満たさなくなる、あるいは逆に、満たしているのに届出をしていないというケースも起こり得ます。具体的な人数要件はサービス種別・規模・自治体の解釈で異なるため、この記事では数値を挙げません。必ず指定権者である自治体の担当課に確認してください。加算の取りこぼしという観点では、取れたはずの加算が取れていない――介護報酬改定を「取りこぼしの型」から読み直すも合わせて読むと、確認の順番が整理しやすくなります。

5. 間接業務の時間を取り戻す

配置の見直しで最も即効性があるのは、記録・報告・会議の圧縮です。同じ内容を複数の様式に書き写していないか、週次の会議が本当に週次である必要があるか、申し送りが口頭と紙の二重になっていないか。ここで生まれた時間は、直接ケアに充てられます。

ICT・AIを入れるなら、配置の整理が先

記録支援や音声入力などのツールは、間接業務の削減に向く領域です。ただし、業務が整理されていない状態でツールだけを導入しても、入力先が一つ増えるだけに終わりがちです。順番としては、業務の棚卸し → 配置と役割の整理 → そのうえでツール選定、となります。

また、医療・介護の記録は要配慮個人情報を多く含みます。外部サービスに情報を渡す場合、何を渡してよいかの線引きを事前に決めておく必要があります。この点は記録に AI を使う前に決めておく「外に出してよい情報」の線引きで詳しく扱っています。導入後に特定の職員しか使えない状態になる問題については、「あの人がいたから回っていた」を越えるも参考になります。

配置変更で踏んではいけない点

配置の見直しは、働く人の労働条件に直結します。以下は、手順を誤ると法的な問題や離職につながる論点です。

  • 労働条件の不利益変更:勤務時間帯や職務内容の変更が労働契約の内容に及ぶ場合、労働契約法の考え方に照らした手続きが必要です。一方的な通告は避け、説明と合意の記録を残します。
  • 説明の順番:決定後に通知するのではなく、課題の共有・案の提示・意見聴取の段階を踏みます。配置は「誰かが損をする」と受け取られやすいため、何のための変更かを先に伝えます。
  • 試行期間を設ける:たとえば次のような場面です。ある部署で勤務時間帯を変更する際、まず1か月を試行期間とし、終了時に現場の声を集めて継続・修正・中止を判断する。こう決めておくと、現場の抵抗感は下がります。
  • 記録を残す:変更前後で、残業時間、記録にかかる時間、欠員発生時の対応回数などを比べられるようにしておきます。感覚だけで評価すると、次の見直しの根拠が残りません。

まとめ

人が集まらない局面で、採用だけに力を注ぐと、成果が出るまでの期間を現場が消耗で埋めることになります。先に手をつけられるのは、いまの人員の使い方です。

  • 業務を「資格が要る/経験が要る/どちらも不要/間接業務」に分解する
  • 人数の合計ではなく、時間帯ごとの過不足を見る
  • タスクの移し替えは、法令上の範囲を確認したうえで行う
  • 配置変更が指定基準・加算要件に触れないか、指定権者に確認する
  • ICT・AIの導入は、配置と役割を整理したあとに検討する
  • 労働条件に関わる変更は、説明・合意・記録の手順を省かない

配置の見直しは、一度やって終わりではありません。利用者の状態像も職員の構成も変わります。半年から1年の周期で業務の棚卸しを繰り返すこと自体を、運営の仕組みに組み込んでおくことをおすすめします。なお、本記事は一般的な考え方の整理であり、個別の人員基準や加算要件の判断については、必ず所管の自治体および専門家にご確認ください。