結論:資料が3つそろえば、相談は提案から始められる
AI の導入を外部のベンダーやコンサルタントに相談するとき、事業所側が先にそろえておくべき資料は、大きく「業務の量」「困りごと」「使っている機器・システム」の3つです。この3つが手元にあると、初回の打ち合わせが「現状をヒアリングする時間」ではなく「どこに手を入れるかを決める時間」になります。逆にそろっていないと、相手は一般論のカタログ説明しかできず、こちらは比較のしようがない見積もりを受け取ることになります。
特別な分析は要りません。すでに事業所の中にある勤務表、記録様式、保守契約書、ヒヤリハットの記録。それらを相談用に並べ替えるだけで足ります。この記事では、何を、どの粒度で、どこまで外に出す形にして用意するかを整理します。
なぜ資料を先にそろえると話が早いのか?
相談を受ける側は、事業所の中を見ていません。「記録に時間がかかっている」と言われても、それが1日あたり何人分の、どの様式の、誰の作業なのかが分からないと、提案は「音声入力はいかがですか」程度で止まります。提案が抽象的だと、こちらも「なんとなく良さそう」「うちには合わない気がする」という印象でしか判断できません。
もう一つの理由は、見積もりの前提をこちら側で握るためです。資料がないまま話を進めると、相手が置いた前提(利用者数、職員数、既存システムの種類)に沿って金額が出てきます。後から前提が違うと分かれば、追加費用の話になります。前提をこちらの資料で固めておけば、金額の根拠を後から検証できます。
そして3つ目は、事業所の中の合意形成に効くという点です。資料を作る過程で、どの業務が重いのかを管理者と現場で突き合わせることになります。ここがずれたまま外部に相談すると、導入後に「現場が使わない」という結果になりやすくなります。業務の洗い出しそのものの進め方は、AIの入れどころは業務の書き出しで決まるでも扱っています。
そろえる資料は何? — 3つの束で考える
完璧な資料集は要りません。次の3つの束に分けて、それぞれ A4 で1〜2枚程度を目安にまとめます。
| 束 | 中身の例 | どこにあるか |
|---|---|---|
| 1. 業務の量 | 利用者数・患者数の規模感、職員数と職種構成、1日の記録件数、会議や申し送りの回数と時間、主な加算・算定項目 | 勤務表、シフト表、実績記録、請求データ |
| 2. 困りごと | 時間がかかっている作業、ミスが起きやすい場面、人によって差が出る作業、残業が集中する時間帯 | ヒヤリハット記録、職員アンケート、管理者の所感 |
| 3. 機器・システム | 介護記録ソフト/電子カルテの名称、PC・タブレットの台数と年式、ネットワーク環境、個人所有端末の使用可否、保守契約の相手と期限 | 保守契約書、資産台帳、情報システム担当者の控え |
この3つは、どれか1つでは足りません。量だけでは「何に困っているか」が分からず、困りごとだけでは規模が見えず、機器だけでは何を解決したいのかが分かりません。3つそろって初めて、相談先は「この規模で、この課題なら、この環境で何ができるか」を判断できます。
業務の量はどう数える? — 正確さより前提の明示
ここで多いのが「正確な数字が出せないから後回しにする」という詰まり方です。相談段階では、精密な実測値よりも前提が書かれた概数のほうが役に立ちます。
たとえば次のような書き方です。
- 「利用者 40 名規模、常勤換算で介護職 15 名程度(2025年10月時点の勤務表より)」
- 「日々の記録は 1 名あたり 1 日 2〜3 件、特記事項がある日はこれに加えて経過記録が1件(記録ソフトの出力件数を1週間分数えた概算)」
- 「申し送りは 1 日 2 回、各 15 分前後(管理者の体感値、実測していない)」
重要なのは、その数字がどこから来たのかを併記することです。「実測」「出力件数」「体感値」を区別して書けば、相談先はどこを精査すべきか判断できますし、こちらも後で数字を直すときに迷いません。推測値を断定的に書くと、見積もりの土台が崩れます。
数える期間も揃えておきます。繁忙期だけを切り取ると過大に、閑散期だけだと過小になります。可能なら「直近3か月の平均」「通常週の1週間」のように、期間を明記した形にします。
困りごとと機器は、どの粒度で書き出す?
困りごとは「作業名+いつ+誰が」で書く
「記録が大変」では相談になりません。作業の名前、発生するタイミング、担当する職種の3点をそろえます。
- 悪い例:事務作業が多い
- 良い例:月初の実績確認で、請求ソフトの出力とサービス提供記録を1件ずつ目視で突き合わせている。担当は事務職1名、月初の3日間に集中する
こう書けると、AI で置き換えられる部分(突き合わせの自動化)と、置き換えられない部分(最終的な確認と責任)の線が引けます。点検作業の分解については、算定漏れは注意力では防げない — 点検を4工程に分けるの考え方が参考になります。
機器は「名称・年式・契約」の3点セット
AI ツールの多くは既存システムとの連携可否が導入可否を左右します。次の項目を控えておきます。
- 記録ソフト/電子カルテの製品名とバージョン、クラウド型か院内設置型か
- 端末の台数、OS のバージョン、更新サポートの残期間
- ネットワーク:インターネット接続の有無、無線LANの整備範囲、業務系ネットワークとの分離状況
- 保守契約:相手先、契約期間、データの外部連携に関する取り決めの有無
特に保守契約と、既存ベンダーとのデータ連携条件は見落とされがちです。新しいツールを入れる話が、既存契約の変更を伴うことは珍しくありません。契約書の該当ページをコピーしておくだけでも、後の確認が早くなります。
外部に渡す前に、何を伏せる?
資料をそのまま相談先に渡すわけにはいきません。個人情報の取り扱いは、相談段階から適用されます。
個人情報保護法および、個人情報保護委員会と厚生労働省が示す「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を踏まえ、少なくとも次は外部提供の前に確認します。
- 利用者・患者の氏名、生年月日、住所、個別の病名や支援内容が特定できる記述を含めない
- 記録の実物を見せる必要があるときは、様式の雛形(空欄のフォーマット)を使う。実データを使うなら、匿名化の方法と範囲を事前に決める
- 職員の氏名も、個人情報として扱う。職種と人数に置き換える
- 相談先との間で、秘密保持に関する取り決めを結ぶか、少なくとも口頭で範囲を確認する
加えて、医療機関であれば厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」が、外部事業者との責任分界や委託の考え方を示しています。クラウドサービスを使う場合は、データの保存先や再委託の有無も確認対象になります。何を外に出してよいかの線引きは、ツール選定より前に決めておくべき論点です。この点は記録に AI を使う前に決めておく「外に出してよい情報」の線引きで詳しく整理しています。
なお、これらの資料を作ること自体が、導入の可否判断にもなります。「困りごとを書き出してみたら、AI 以前に様式の整理で解決しそうだった」という結論も十分にあり得ます。それも資料を作った成果です。
まとめ:相談は、こちらの材料で質が決まる
外部への AI 相談で得られるものの質は、相談先の力量だけでなく、こちらが差し出す材料の質で決まります。整理すると次のとおりです。
- 業務の量を、期間と出どころを添えた概数で出す。実測か体感値かを区別する
- 困りごとを「作業名+いつ+誰が」で書く。抽象的な不満のままにしない
- 機器・システムを、製品名・年式・保守契約の3点で控える
- 外部に出す前に個人情報を外す。様式は雛形で、職員は職種と人数で表す
- 関係する法令・ガイドラインの名称を控え、該当箇所を相談先と確認する
この5点を A4 数枚にまとめるだけで、初回の打ち合わせは「現状説明」ではなく「選択肢の比較」から始められます。そして資料を作る過程そのものが、事業所の中で「何に困っているのか」を言葉にする機会になります。AI を入れるかどうかにかかわらず、その作業には意味があります。
なお、ここで挙げた内容は一般的な整理であり、個別の制度適用や契約内容の判断は、所管の行政窓口や専門家、既存ベンダーへの確認が必要です。資料は、その確認を的確に行うための土台でもあります。
この記事は、AI で下書きを作り、益山康秀(運営者)が内容を確認して公開しています