AI が作った記録の下書きを誰がどこまで確認するか。結論から書くと、確認を「事実が合っているかの照合」と「表現と判断に責任を持つ最終確認」の二段に分け、それぞれの担当と時点を文書で決めることです。全員が全部を読む運用にすると、結局は誰も本気で読まなくなり、確認は形だけになります。逆に、見る範囲を狭く区切ると、短時間でも中身のある確認が残ります。この記事では、下書きに起きやすいずれの型、二段分担の具体的な決め方、そして制度上の前提を整理します。
なぜ確認が「形だけ」になるのか?
形骸化は担当者の怠慢で起きるのではなく、確認の設計が原因であることがほとんどです。主な理由は三つに整理できます。
- 範囲が広すぎる:「全文を確認する」という指示は、何を見ればよいかを示していません。見る対象が無限定だと、人は読み流します。
- 重複している:記録者も、リーダーも、管理者も同じ観点で同じ文章を読む。重なっていると「他の人が見ているはず」という前提が生まれ、どの段階でも精度が落ちます。
- 直す権限が不明:気になる箇所を見つけても、自分が書き換えてよいのか、記録者に戻すのかが決まっていない。結果、見なかったことになります。
AI の下書きは一見して整っているため、この三つの弱点が出やすくなります。文章が自然であることと、内容が事実であることは別物です。読みやすい文ほど、読み手は確認をしたつもりになりやすい、という点を前提に運用を組む必要があります。
下書きで何を確認するのか — ずれの型で分ける
確認すべき対象を「ずれの型」で分けると、見る観点が短い言葉で指示できます。たとえば次のような分類です。
| ずれの型 | 内容 | 気づける人 |
|---|---|---|
| 事実のずれ | 時刻、量、回数、実施の有無、人名など、現場で確認できる事実が違う | その場にいた担当者 |
| 補完のずれ | 話していない内容が、もっともらしい文として補われている | その場にいた担当者 |
| 解釈のずれ | 観察した事実に、根拠の薄い原因や評価が付け足されている | 専門職、リーダー |
| 表現のずれ | 家族や他職種が読んだときに誤解を招く言い回し、断定しすぎる表現 | リーダー、管理者 |
| 制度のずれ | 加算や基準で求められる記載項目が欠けている | 請求・基準の担当 |
ここで重要なのは、型ごとに気づける人が違うという点です。その場にいなかった管理者は事実のずれを見抜けませんし、現場担当者は制度上の記載要件まで把握していないことがあります。だからこそ、全員が同じ観点で読む運用は非効率になります。表現の調整については、家族向けの言い換えでAIに任せない4点も併せて確認の観点にできます。
誰がどこまで見る? — 二段構えの分担
確認は、大きく次の二段に分けます。
一段目:事実の照合(その場にいた人が、その日のうちに)
一段目は、下書きを作った業務の当事者が行います。見るのは、上の表でいう「事実のずれ」と「補完のずれ」だけです。観点を絞り、次のような問いに置き換えると短時間で終わります。
- 書かれている時刻・量・回数は、自分の記憶および他の記録と一致するか
- 自分が見ていないこと、聞いていないことが書かれていないか
- 実施していない行為が、実施したように書かれていないか
この段階では文章の美しさを整えません。整えるために時間を使うと、本来見るべき事実の照合がおろそかになります。
二段目:記録としての最終確認(責任を負う職種が)
二段目は、その記録に職務上の責任を負う立場の人が行います。見るのは「解釈のずれ」「表現のずれ」「制度のずれ」です。観点は次のようになります。
- 観察した事実と、評価・判断が区別して書かれているか
- 家族、他事業所、行政が読んだときに誤解されない表現か
- 計画やアセスメントとのつながりが追えるか
- 加算や基準で求められる記載項目が落ちていないか
二段目を全件に課すと負荷が過大になる場合は、対象を絞る判断もあり得ます。たとえば、外部に提出する書類、事故やヒヤリハットに関わる記録、計画の変更を伴う記録に限って二段目を必須とし、日々の経過記録は一段目+抽出点検にする、といった分け方です。どこで線を引くかは事業種別や体制によって変わるため、自施設の実情に合わせて決め、文書に残してください。
記録の責任は誰が負う? — 制度上の前提
AI が下書きを作っても、記録の責任主体が人である点は変わりません。確認の分担を決める前に、次の前提を押さえておく必要があります。
- 記録の作成主体:診療録や看護記録、介護サービスの提供記録は、それぞれの根拠となる法令および運営基準で、作成・保存が事業者や有資格者に求められています。医師法、保健師助産師看護師法、介護保険法に基づく運営基準などが関係します。AI は作成を代行する主体にはなりません。
- 個人情報の取扱い:個人情報の保護に関する法律、および「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」の考え方を踏まえ、どの情報を外部サービスに入力してよいかを事前に決める必要があります。この点は記録に AI を使う前に決めておく「外に出してよい情報」の線引きで整理しています。
- システムの安全管理:電子的に記録を扱う場合、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」が参照先になります。外部サービスを使う場合の責任分界点の考え方も、このガイドラインの枠組みで整理されています。
これらは最新版が更新されるため、具体的な要求事項は必ず各所管省庁が公表している現行版で確認してください。本稿では名称の提示にとどめます。
確認を仕組みにするには何を決める?
分担を決めても、口頭の申し合わせでは数か月で崩れます。文書に残す項目を挙げます。
- 対象:どの記録種別に、どの段階の確認を課すか
- 担当:一段目・二段目を、役職名ではなく「その業務に当たった者」「サービス提供責任者」など特定できる形で書く
- 時点:当日中、翌営業日中など、期限を明示する
- 観点:見る項目を三〜五個に絞って列挙する
- 修正の権限:誰が直してよいか、戻すのか、修正履歴をどう残すか
- 記録への残し方:確認者が分かる形でシステムに残す
もう一つ、運用を腐らせないために有効なのが振り返りの場を定期的に置くことです。確認で見つかったずれを月単位で持ち寄り、型ごとに件数を把握すると、どこに AI が弱いか、どの観点の確認が効いているかが見えてきます。ずれがほとんど見つからない観点は、確認項目から外す判断もできます。確認項目は増やすより、減らして残すほうが機能します。
なお、そもそもどの業務に AI を入れるかの検討段階では、AIの入れどころは業務の書き出しで決まるの手順と併せて考えると、確認負荷の見積もりがしやすくなります。
まとめ
AI が書いた記録の下書きを確認する仕組みは、次の形で整理できます。
- 確認は「事実の照合」と「記録としての最終確認」の二段に分ける
- 一段目はその場にいた人が、事実と補完のずれだけを短時間で見る
- 二段目は責任を負う職種が、解釈・表現・制度要件を見る
- 見る観点は型で示し、三〜五項目に絞る
- 対象・担当・時点・観点・修正権限・残し方を文書化する
- 記録の責任主体は人であり、関係法令およびガイドラインの現行版で要件を確認する
確認が形だけになるのは、人の意識ではなく範囲の設計の問題です。見る対象を狭く、担当を一人に特定し、期限を切る。この三つが揃ったとき、短い確認でも意味を持ちます。自施設の記録種別を一覧にして、どこに二段目を置くかを話し合うところから始めてみてください。
この記事は、AI で下書きを作り、益山康秀(運営者)が内容を確認して公開しています